2013年10月アーカイブ

大阪で...その2

 大阪2日目だが、午後3時には関空から函館へ戻る身でもある。朝食を早めに済ませば5時間程度の余暇は出来るだろう、しかし店主は大阪に疎くて実のところ西も東もわからない。見どころはおろか大阪の地理すら思い浮かばないのが正直な所。それを救ってくれたのが藤塚先生で、1時の講義まで空堀地区の「長屋再生運動ウオッチング」をご一緒しましょうというお誘いがあった。もちろん店主に異存はない。世界中の都市を訪ね歩き、その個性や課題をつぶさに研究してる藤塚教授の個人指導なわけで、これは大変な幸運と言わねばならない。情報過多時代だが頼りになるのは量ではなく質、こうしたものは信頼出来る人へのお任せが一番だ。
 電柱や建物に張られた住居表示は「中央区...」とある。きっと大阪の中心部なのだろう。だが、どこだって地価の高い中心部は高層化による再開発を進めるわけで、平屋か二階建てが圧倒的に多いこの地区は所謂都心イメージではない、不思議な価値観に支配された都心の異空間だ。アップダウンや丁字路など小路が複雑に行き交い、両側には使い込まれた長屋や歴戦の個宅が隙間なく立ち並んでいる。まことに怪しい地区で店主興味あふれる世界であり、この度のワークショップの内容ともシンクロして直球のストライクだった。そんな地区巡りに必須なのが直感と嗅覚なのだが、教授のそれは「さすが」だった。おまけに純米大吟醸酒が入ってずしりとなった店主バッグを、その間教授はずっと持ち運んでくれてたのである。申し訳なさを忘れて歩き回ったけれど、そのお陰で空堀地区における大阪庶民再生エネルギーの実態観測に浸る事が出来た。アーチストや起業家精神に満ちた人々のアトリエやショップも散在している。英国パブ風に改修された居酒屋があり、突然朱色に塗られた古い祠が姿をみせたり、共同便所があったりと、実にスリリングな一帯だった。
 今も鮮明に思い出すのが瓦屋町1丁目1番地1号の"雑貨店・おおきな木"だ。狭い道幅の露地のその最奥に、我々は既知だったかのように辿り着いた。小さな店の内外に骨董玩具が溢れていて、それはそれで気が引かれるたのだが、そうした多様な展示品の混沌やアバンギャルド性に埋もれて「六ヶ所ムラ」や「ジュゴン」というメッセージが、とても生き生きと語りかけてきたのである。ショッピングセンターやアウトレットモールなどへと集中しながら、しかし人々の興味と好みは深く高く優しく拡散してるのである。"おおきな木"が静かに、しかし心を込めて発信するメッセージを受け止めて帰路についた。
画像は空堀地区でみたウインドーデイスプレイで、タペストリーのイラストと下に置かれた店名を表す木彫キノコとが秀逸だった。
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大阪で...その1

 遠出してきた。大船縄文温泉や大沼公園なんかじゃなく、羽田経由伊丹空港着だからちょっとした旅である。目的は大阪市立大学創造都市研究科藤塚教室ワークショップの講師役で、函館の都市特性や景観問題などを語り、その後学生諸氏からの質問にも答えるというもの。人前で話す様な柄じゃないのは分かってるが、今までそんな恥知らずをしてきたのも事実だ。しかしそれはせいぜいが90分くらいのもので、安請け合いした後でわかった事なのだが、この度は何と持ち時間は3時間だという。途端に不安でうち震えたが、それも後の祭りで、飛び降りる機会をうかがってるうちに伊丹空港に着いてしまった次第だ。
 藤塚教授とは長いおつきあいになる。教授はコミュニテイFM番組「元町倶楽部のじろじろ大学」の熱心なリスナー(当時はインターネット配信があった)にして5度も生出演してもらってもいるが、何と言っても「都市のジェントリフィケーション」が教授のライフワークで函館は格好の研究対象なのだ。もちろん実地を度々訪問してるけれど、こうして都市の一部を研究素材として「取り寄せて」学生に観察させるというのも大学教授のお仕事と理解した。
 ほぼ正午、伊丹空港には教授が出迎えてくれた。京都の老舗生まれの藤塚教授だが相変わらずの品性と柔和な表情に溢れていて、街並みウオッチングを兼ねた酒蔵巡りへと誘ってくれた。"白雪"の小西酒造のビアレストラン長寿蔵が歓迎昼食会の場で、その後"白鶴"や"菊正宗"というビッグネームの資料館を訪問、おかげで六甲の伏流水が民族の魂を磨いてきた伝統銘酒へと変身する様を知る事ができた。
 そんな時間を過ごしつつ我々はやがて大阪都心へと入り込む。大学サテライトは梅田の中心ビル6階にあり、講師控え室も用意されていた。小心店主が些かの不安を吐露すると「皆さんそう仰るけれど、最後は必ず時間が足りなくなりますよ」と事も無げ。綺麗な小箱を手渡しながら「長丁場ですから、時々これでエネルギー補給してください」と仰り、見れば徳島の和三盆菓子で、なんだか桃太郎サンから頂戴するキビダンゴに見えてくる。それにしても社会人にして大学院生という向上心の権化とは一体どんな人々なのか、教室前の店主の足どりは正直重かった。
 話し手にとって熱心な聞き手ほど嬉しいものは無い。そんな聞き手と和三盆のオマジナイのおかげで「時間が足りなくなる」ほどの3時間を終える事が出来た。その後懇親会というありがたい席にご招待され、サテライト至近距離にあるホテル12階に辿り着いたのは殆ど明くる日近かった。"白鶴"純米大吟醸の小瓶をそっと開け、一口啜ってからベッドに潜り込んだ。
画像は大阪第一ホテル12階客室からの梅田界隈夜景
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今年も晴れた

 連休中の函館だが空模様がよろしくないし、気温も低い。道行く観光客も厚いコートを着用して冬期臨戦の態勢だ。幾重にも着膨れたせいでその財布は持ち主の奥深くにしまい込まれ、店主の切なる期待とは裏腹にその収納物は逃げ水の如く遠のくばかり。その上、世情は原発汚染水垂れ流しやらTPPや消費税に加えてJR北海道事故連発やアメリカ政府の経済破綻問題など気の滅入るハナシばかりだ。口にこそ出さぬけれど誰しも所謂ハルマゲドンの恐怖が脳裏をかすめてるに違いない。
 しかし今朝の天気は上々だった。抜ける様な青空が広がり、無風で気温もぬくぬくである。気がつけば本日はご近所ロシア教会のバザーだ、ギャラリー開店の時間だが店主エマちゃんお供で出かける事にする。白亜の教会は陽射しを浴びて輝いており、緑の木々の間に張られた白テントでは焼きそばやフランクフルトや地元野菜やボルシチやピロシキが並び、多くの善男善女の笑顔が行き交っている。信徒会館に入ると鐘つき陶芸家の高井秀樹さんが作品を前に立っている。白磁の飯茶碗など買い求め、さらに奥に進むとそこは教会の宝物の展示コーナーだ。黒衣黒帽正装姿のニコライ・ドミートリエフ司祭がおいでになり、これまたにこやかに「この二十年、バザーの日は必ず晴れてまーす」とか仰る。そして司祭は展示物である一本のキャンドルをエマちゃんに手渡し「神様からの贈り物でーす」という成り行き。見ればロシア正教十字架などが金色で装飾されたビーズワックスと思しき逸品。エマちゃんがその有り難さに気ずく前に取り上げたが、それはギャラリー一角に有り難くデイスプレイされ、その霊験あらかた、さっそく長野の函館市民廣田夫妻や、テニスとアートの女神M本さんなどを招き寄せる事になるのでありました。
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川眞田弘藍作品展

 例年この時期に開催するのが川眞田さんの作品展だ。藍の本場徳島と大沼湖畔とを行き来しながら優れた活動を続けている藍染め作家である。ギャラリーと藍染めの関係はは23年前の初企画展「愛は藍である」以来で、現在も初夏の安藤さんとともにその伝統を担って頂いてる。
 ファッションデザイナーのコシノジュンコさんが大幅な信頼を置いてるのが川眞田さんで、パリコレ作品などコシノ藍染めはすべてこの人の手に拠るもの。それほど川眞田さんの技は評価が高いのだが、しかしその表現力も同等に優れたもので、とりわけ藍型絵染めで表現した大沼の静寂さや、函館西部地区は見事のひと言に尽きる。眺めてるとその場の佇まいに引き込まれ、藍一色の表現可能性の深さ高さに正直驚かされる。
会期 10月16日まで
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