末永さんは獣医師だ。札幌生まれの帯広畜産大学出身、ただいま道南八雲町在住の獣医師である。八雲は酪農が主産業の街なので、人間相手の医師よりもある意味獣医の方が果たす役割は切実。自覚症状を伝える術を持たない牛や馬たちを診察し治療するわけで、誠実であろうとすればするほど負う責任は限りなく高まる。牛や馬や鶏たちを、生命とみてるか物質と見てるかが日々問われるのである。
末永さんのキャンバスは木の板である。そこに焼きごてで様々な動物達を描き込む。ラフな鉛筆下絵を目印にしながらモデルたちの姿態を再現するわけだが、完成した作品を見れば、作者が動物達を自分と同じ生きものと見てるのがよくわかる。そしてここが大事なことだが、骨格や筋肉や毛並みに注ぐ視線が専門家のものと言う事だ。アルタミラ洞窟などの古代画がどんな目的で描かれたか知る事は出来ないが、現代人が動物園あたりで漫然と観察する視点とは大いに異なり,その時代の表現者は"食糧としての狩猟対象動物"を観察して描いてたという事だ。切実な視点で行った観察のその結果なのだ。何度も書いたけど「粗末な作家は作家をまねるが、優れた作家は自然に学ぶ」というあのダヴィンチの言葉がここでも蘇える。
末永龍太のウッドバーニング画「牛舎の中の生きもの」展
会期11月20日から12月1日まで
末永龍太作 上『牛舎のヤギ」下『放牧地の老いた牛」