2014年3月アーカイブ

たかがカネのために...

 水曜日から函館を襲い始めた鬱陶しいスモッグが今も連日やって来る。息を吸う度に煙くさい異常分子が肺を満たし、さすが鈍感な店主も出来損ないの薫製小屋に閉じ込めれた気分になる。これを微小粒子状物質PM2.5と呼ぶ様だが、道行く中国人観光客だけがこれを平然と受け止めてるみたいだ。
 新聞報道に拠れば日本海を渡ったソレが津軽海峡を通過して、函館はそれに直撃されてるらしい。ただ、室蘭市の濃度が異常に高く、札幌や旭川など内陸部でも観測されてるのでその飛行ルートはそう単純なものでもなさそう。もちろん政治力や経済の都合に応じて汚染地区が決まる訳でなく、それより、何よりも問題なのは、こうした厄介物が斯くも膨大に輩出されてるという事実の方だろう。
 ついで乍ら、函館市長がついに「大間原発建設凍結」を求めて訴訟に踏み切った。詳しくは市のHP(bousai@city.hakodate.hokkaido.jp)をご覧頂くとして、そこには「原発の新設は、福島第一原発の大事故を起こした我々世代が判断する事ではなく、他の安全なエネルギー開発の状況を見ながら将来世代の判断に委ねるべき...」と至極真っ当な主張がなされている。市民の一人として当然支持するし、市長の勇気を讃えたい。放射能汚染の核マネー族の反撃もあるだろうけれど、たかがカネのために地球環境がメチャメチャになるわけで、そこにはマチもムラもクニもないのだよ、と言いたい。
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今朝の定点観測

「事情がありなかなか函館に行けません...」といったメールが届いた。いままで50回以上も来函してる姉妹なのだが、今回は様々な事情が重なってるらしく「懐かしき函館の風景をブログに載せて欲しい」と記されていた。そんなわけで早起き店主はニコンさげて勇躍...という程ではないけれど、近くの定点観測地に出かけてきた。見やれば見慣れた風景がいつもと違い、見慣れた函館がどんよりとした靄に覆われてる。
 空に雲はないのに太陽光もフィルターを通して届いてるみたいで、何だか薫製になってしまった気分になる。これが例の越境侵入者なのだろうが、思えばフクシマ太平洋も、また最近情報が途絶えてるメキシコ湾発、原油流出拡大中の大西洋など、汚染の方は確実にグローバライゼーション進行中だ。
 Tさん姉妹には申し訳ない気分になるのだが、今朝6時半ころの函館画像であります。
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「見せたいもの」と「見たいもの」

 Tムラ君に誘われて木古内町に行ってきた。地域の魅力発信に関するサミット参加のためで、そこでは弘前市の「路地裏探偵団」団長と我らのTムラ君が講演されるのだ。「東京建築探偵団」赤瀬川原平さんの知遇を得る店主としては、東北や道南一帯に勢力拡大してるらしき遺伝子調査研究の好機なわけでもあり、勇んで出かけた次第。
 木古内町は人口5千人の小さな町だ。林業や農業が主産業で、寒中ミソギといういささか自虐的な神事でも知られている。そして、津軽海峡海底トンネル潜って延伸して来る北海道新幹線の、その最初の停車駅マチでもある。それを絶好機と捉えて町おこしに精を出すのは当然で、その現況を知りたくもあった。
 会議の内容には些かの違和感をもった。「まち歩き」がテーマなのだが、肝心のマチはと言えば、駅から500メーターも歩けば行き止まり、もろに津軽海峡と出くわす。怪しき物件を探り巡る歓びはなく、指示通りただ順番に観て歩くしかない。道路拡幅工事と整備が始まって、マチの記憶を蓄積した建物がバリバリ取り壊されていた。遺すに値しなかったとも言えるし、それ以上のものを作る自信があったのかもしれない。主体者は町民だから、よそ者が云々する筋じゃないが、しかし問われたから店主は答えた。かって木古内の渓流で起きたヒグマ事故に触れ「完全な野生と出会う事が出来て、戦い、無惨だが幸福に死ぬ事が出来る土地」をこそアッピールすべきではないかと提案したのだ。どこの駅前も人類の賢しらなエネルギーでいっぱいだ。誰もがうんざりしてる。木古内が誇るべきはそんな事じゃないだろう...、という訳だ。
 無念にも店主案は無視された。「そんな危ない場所に誰が行きたがるか」という論理だ。行政の役割は市民国民の安心安全追求だからやむを得ないとは思う。一瞬、TPPやオスプレイや原発が脳裏に浮かんだけれど、しかしここはそれを言い合う場ではない。押し黙り、懇親会を楽しんで再びJRに乗って帰ってきた。
 画像は今朝6時ころのご近所。
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下流人

 これも労災の一種、とにかく活字無しでは眠れない。そこで本棚からテキトウなのを選んで寝床に持ち込むことになる。昨夜は光文社新書の三浦展著「下流社会」だった。こんな本があった事すら忘れていたので儲け物した気分でパラパラめくったが、内容は消費社会論とあり、労働とも連関していて、このところの店主関心案件。
 著者は「ファスト風土化する日本」を世に問うたマーケテイングの専門家だ。戦後の日本社会、とりわけ高度経済成長時代に構成された中流が解体、今や上流か下流かそのどちらかに吸収され始めたと説き、下流とは所得が低いというだけでなく、コミュニケーション能力はじめ、働く意欲や学習意欲や消費意欲など総じて人生への意欲が低い、故に所得が上がらず未婚のままでだらだら歩き、だらだら生きてるものが少なくない。つまり、それはその方が楽だからだ、と論じているのである。
 冒頭に設問がある。
1・年収が年齢の10倍未満だ
2・その日その日を気楽に生きたい
3・自分らしく生きるのが良いと思う
4・好きな事だけして生きたい
5・面倒くさがり、だらしない、出不精
6・一人でいるのが好きだ
7・地味で目立たない性格だ
8・ファッションは自分流だ
9・食べる事が面倒くさいと思う事がある
10・お菓子やファストフードを良く食べる 
11・一日中テレビゲームやインターネットをして過ごす事がよくある 
12・未婚である(男性で33才以上、女性で30才以上)
 ...という設問だが、そのなかで半分以上当てはまるものがあれば、あなたはかなり「下流的」である、のだそうだ。店主は驚いた、12は別にしても殆ど当てはまる。下流という言語感覚には恐れ入るが、それではその上流とやらを想像したくなる。きっと我欲の権化であり、なりたくもないし友人にしたくもない様な種族だろう、とヒガミ目半分思うのである。 この本は今時の若年層に関する論考だろう。だが店主も現在に至るまでこうした価値観で生きてきたのも事実だ。「だらだらと...楽な方むいて」下流人を目指してたのを知って、いささか呆然となる。ただ、この本の出たその時代背景だが、小泉内閣の自己責任政策に重なるわけ、政治責任を時代のムードにおっ被せた体制擁護モノということである。何でも政治のせいにするワケじゃないが、そう考えれば気は休まる。
 画像は、今日の陽気でますます縮んだスノーマン5号
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今日のスノーマン

 風はまだ冷たいのだが、陽射しはとても春めいてる。そのせいで、自慢のスノーマン5号も変形してしまった。横幅はそうでもないが高さが随分と縮んでしまい、首周りも細くなったようだ。道行く人々に愛想を振りまいてた右手指も殆ど溶けて、そのせいか人寄せ神通力も半減したみたい。FMいるかの現場中継が入るというので手直ししようとは思ったのだが、しかしラジオだ、ま、いいか...と美容整形なし素顔での登場となった。それでも、中継にきた平形織子さんはベタ褒めしてくれた。「昨日だったら5頭身美人だったのに」と、些か無念な気分も湧いて出た雪像作家でありました。
 画像は午後4時50分ころだが、日もずいぶん長くなった。それも溶けた理由のひとつだろううか。
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スノーマン5号

 溶け消えては再生するスノーマンだが、その始まりは雪捨ての苦肉の策だった。だから降れば出現し、溶けたら消えるというのは当たり前だ。最初は素朴なものだった。しかし道行く観光客がカメラを向けるせいで次第に「力作」になり、最新作の5号など、片手を上げてハローと挨拶するまでに進化した。そのせいで益々人気沸騰、観光客達が群がり寄って来るわけで、近所の女神まがい像じゃないけれど「樹脂で成形した、夏でも喜ばれるスノーマン」てな構想がチラリ店主のアタマを過る。思えば、こんな事の積み重なりが、工夫や進歩や成長で、つまりが人類弱点の原点かもしれないではないか。
 ヒトには寿命がある、だから、どんな天才も悪徳も一代限りで終わる。しかし、企業など組織となると基本的に永続するわけで、それらは如何にして生き延びるかを「命がけで」探り実行し、進化成長する。原発や遺伝子操作農作物などなど皆その成果物だ。なかには有用な発明発見もあるのだろうが、資本主義での大きな成果物など、もう「危ない橋」の向こう側にしか残ってないという事だろう、ナ。
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雪の中で考えた

 競争原理が働くせいだろうが、我らの世界は休まる暇がない。とりわけ企業活動の争いは熾烈だ、苦心賛嘆、画期的な新技術新製品を開発しても先行者メリットが物を言うのはほんのつかの間、「画期的なアレコレ」などといっても、寄って集ってたちどころに丸裸にされ次々それを上回る画期的な技術や製品をひねり出して来る。そして問題なのはそれがエンドレスに続くという点で、ほんとうにとどまる所を知らない。サバイバル競争で勝ち残る為には結局良心や良識に拘っていては生き残れないという事であり、「生き抜くためには死んでも良い」というのがその生命力という事になるナ...などと、降りしきる雪を眺めながらボンヤリ思ったものだ。雪ならいつか止むだろうし、積もってもやがて溶けて消えるのに...な...と。
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労働は...

 このところ連続して、労働や仕事について論じた二冊の本を読んだ。西村佳哲「ひとの居場所をつくる」と、佐藤瑠美「3・11後の労働デザイン」だ。著者はどちらも知人だが、世代は遥かに若く、従って当然店主の馴染んだ労働論とは違ってとても臨場感に満ちていた。
 気鋭のデザイナーであり「働き方研究家」の肩書きを持つのが西村さんだ。西村デザイン作品はギャラリーにも展示されてるし、著書は他に「自分の仕事をつくる」や「自分をいかして生きる」「なんのための仕事?」ほか沢山ある。この度の新刊もその延長で「これからの暮らしと仕事を、個人的サバイバルや我慢比べという消耗戦にしないで、文化を生み出して行くものにするにはどうするか」とある。岩手県遠野市で実践活動してる人を取材紹介したもので、カバー惹句には「これからの日本でどう生きてゆこう?」ともあった。
 佐藤さんは3年前にギャラリーを訪ねてくれた人だ。実労働と学問研究との岐路で迷ってたとかで、「表現すること」について会話したのを思い出す。結局大学教官の道を選択したのだが、これはその研究論文なのだろう。読めば画家と音楽家二人のアーチストを取材し、労働は人生そのもであり即表現であると結論付け、極まった現代資本主義の荒涼とした労働環境と、そこからの脱出法を真剣に模索していた。時としてヒト自らを殺すしかなくなった労働世界とは何か、何故こうも疎外が深まってしまったのかと問うくだりなど、行政保健師を経て大学看護学部教官に転身した佐藤さんの現状認識であり、心からの叫びだろう。
 かっての職人や百姓たちにも備わっていたのが「何事にも代え難き達成感や恍惚感」だ。それは個人の誇りであり人生そのものだった。然るに今や「仕事があるだけまだマシ」と言うしか無いわけでそれが地球を覆い尽くしてる。かっての奴隷だって考えもしなかった悪夢に違いない。悲しいけれどこれが現状で、それを認めた上で正面から立ち向かってるのが西村さんと佐藤さんの著作というわけだ。一気に読み終えたが、思えば、若い世代にこんな労働環境しか遺せなかったのは紛れも無く我が世代であり、その貪欲さがなせる技だ。心底慚愧に堪えない気分でもある。
 画像はただいま展示中の山本睦子さん作「HIMMELI」だ。ライ麦のストローを糸を通して組み立て、天井から吊るすのだが、風にゆらゆら揺れる姿は大変うつくしい。フィンランドの伝統工芸品だが、作り方を教える人も、学ぶ人も、それを売る人も買う人もまた眺める人も、み〜んなが幸せになれる、昔はそういうモノばかりだったはずだ。
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梅里型木造建築 展

 生まれも現住所も盛岡なのだが、梅里進さんは函館東高校の出身だという。昨年暮れの吹雪の午後、彼は函館在の同級生二人に連れられてギャラリーにやってきた。同級生の方はギャラリーの顧客でもあり話は和やかかつスムーズに進み、作家は持参の木箱から次々に作品を取り出した。
 どれもが手のひらに収まるミニチュア建物である。三角屋根が軒を省略して壁に直に接してるのが梅里タイプの特徴だが、所々に施された緻密に彫刻された階段は作家の美学と執念を感じさせた。言われて小さな窓から内部を覗くと、中に色ガラスが取り付けられていて、ステンドグラスのように美しく煌めいた。
 小さな住宅型から鐘楼をもった教会型までいろいろある。それらは有名建築物を模した風でなく、どこか絵本で見る様に生活感のないものだ。しかしこんな家に住みたいと思わせられる美しいものたちだった。政治や経済に引っ掻き回されて無惨な姿になった我らの都市景観だが、そうしたものに対して立ち向かったのだろう表現者の気迫も伝わってくる。作家は2007年家庭画報大賞を受賞したと小さな声で語ったけれど、[夢のある美しい暮らし]作品募集での最高賞受賞は十分納得出来た。店主が審査員でもやはり二重丸を献上したに違いない。企画展示の会期は18日までだが、その後もギャラリー常設の予定。
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断れないワケ

 基本的には「頼まれたら断らない」で今まで生きてきた。講演会やシンポジウムのパネラー、新聞テレビの取材などなど、依頼されたものはほとんど断った事が無かった気がする。出たがりといえばそう言う事になるが、「決して退くな」を人生訓としてきたせいでもある。だがつまりが「晒し者」で、遅きに失したがそんな恥じ多き人生を反省してもいる。
 懲りないことにまた引き受けてしまった。BSジャパンの旅番組なのだが、どこで聞いたのかエマちゃんと共演という、まあ店主の弱点を攻められて今回限りと引き受けた次第。うらうら陽気のロシア教会庭で、爺孫が鐘の音を見上げるシーンが放映されるはずだ。3月17日の夜10時54分BSジャパン「日経おとなのOFF」ですよ〜。
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