師宣く

 先の「毛蟹の図」は 赤瀬川原平師の描いたものだ。師亡き今、店主所蔵最高の美術品である。10年前、著書出版にあたり図々しくも一文を所望したが、師は即座に玉稿を寄せてくれた。そのお礼にと毛蟹を送った(取引としては圧倒的にこちらが有利)のだが、礼状にこの図が添えられてた次第。無知蒙昧の田舎者にも分け隔てなく応対される師の人柄を思い知らされたものだ。いただいた一文は事あるごとに読み返し、思い返ししてるが、ここでその全文をご紹介することにしよう。
 鐘の音に寄せて 
「人生色々で函館に行ったら、古い昔からの木造下見板張りの家がたくさんあって、その外壁のペンキの色を研究する人人々がいて、サンドペーパーでこすって塗り変えの歴史を考古学的に調べていて、そのやり方が面白くて、その後も何度か呼ばれていってしまって、今度この本に一言をということで、函館は古くていい町だから、どうしても新しくしないとしょうがない場合は、新建材は見えない陰の補強として使い、表はあくまでも古く、むしろ見すぼらしく、商売で儲けたとしても表面はあくまで貧乏でぼろぼろに、といって警察の不審尋問は受けないように節度は守って、基本は真面目な社会人で、革新などというただの言葉に騙されないように、人類の晩年を心乱されず、焼き魚にはたっぷり醤油をかけて、科学的な心を大事に、超能力も信じて、まだ人々の気がついていないことはたくさんあると思うので、これからもサンドペーパーで壊さないようにこすりながら、真実を少しずつ見せてくれることを希望します。 乱筆乱文失礼いたしました。」
  こうして師の言葉を書き写してると、なんだか写経してる気分になる。とりわけ「人類の晩年」には深く同調させられるのだが、「あとどれくらい?」とお聞きしとくべきだったと悔やまれてならない。
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